ツトラへのナビについて(読み終わった人向け)


文学フリマ東京、お疲れ様でした。矢田砂尋です。
サークル「砂の鞄」にいらしてくださった方々、
手伝ってくださった方々、本当にありがとうございました。

今回はその中でも、新刊「ツトラへのナビ」を読んでくださった方向けのブログです。

実は今回の新刊は、取り急ぎ100ページで印刷所に発注をかけてしまい、
自分を追い詰めてなんとか新刊を完成させる、という
とても頭の悪い方法によって作られたので色々と無茶をしています。

まず、原稿が出来上がったのが締め切り13分前だったので誤字脱字のチェックを一度も行うことができませんでした。

そして、締め切り直前は二日間ほど徹夜をしてぶっ通しで書いていたので、
意識がもうろうとしており自分でも何故そうしたのかよく分からないシーンがいくつかあります。後で読み返してだいぶ笑いました。

一番問題だったのは、100ページという条件に今回のプロットが全く合っておらず、
物語の配分がだいぶ歪になったことです。端的に言うと、ページ数が全然足りませんでした。
そんなわけで、本来書くはずだったエピソードを3,4つ削っています。
いずれ第二版を出すときにはそれらを書き加え、誤字脱字も直して出そうとは思うのですが、
まずは初版を読んだ方に質問されたことや、裏話を少しだけここに書けたらと思います。
このブログは本編のネタバレを大いに含みますので、できれば「ツトラへのナビ」を読んだ後に楽しんでください。



1.世界観と設定について
今作は基本的に本格的なSFや本格的なミステリをやろうと考えて書いたものではありません。時間と能力が足りないと書き始める前から分かっていたからです。
この作品での二十年前は、コールドスリープ技術があるので現代より未来の話のように見えますが、僕の中での設定は「森野博士によってコールドスリープ技術だけがかなり進んでしまった現代」です。なので作中の描写でも、コールドスリープ技術以外に関しては2018年時点での技術とおおまかには変えていません。未来との違いをハッキリさせるため、そして、この話の焦点があくまで「コールドスリーパー(森野莉子)の孤独」であり「私の考えた未来の技術」という意味でのSFではないことをハッキリさせるためです。

二十年後に関しては少しそれっぽい技術をだしましたが、全く違う時代に来てしまったことを莉子に感じさせることが目的なので最小限に留めています。


2.千夏と麻衣子さんについて
千夏と麻衣子さんはプロット時点では名前はなく、すぐにいなくなるはずのいわゆるモブキャラでした。千夏は同窓会の連絡をよこしてきたクラスメイトA、麻衣子さんは施設の職員Aという具合です。
正直、前半が大きく長引いたのはこの計画外の女性二人がとてもお喋りだったからというのもあります。千夏は優一との関係も含めて上手く物語に溶け込んだ気がしているので感謝しているのですが、麻衣子さんは本当にあんなに喋るキャラクターになると思っていないくて書いてるときは「どうしよう、話し終わってくれない、どうしよう」とばかり思っていました。


3.森野博士について
この話は、元々「会社都合睡眠」というショートショート用のネタでした。
「会社都合退職」という言葉があるのなら「会社都合睡眠」があっても良いのではというアイデアです。その時点での主人公は森野博士でした。
そんな去年の春に思いついたメモを、今回の新刊作成にあたって引っ張り出してきたのです。
そんな訳で書き始めの時点では第三章「コールド焼け」と第四章「ツトラへのナビ」の間に「会社都合睡眠」という森野博士視点の話を書く予定でした。
話の内容としては、最初は研究を優先させてコールドスリープに協力的な森野博士が、普段大人しい娘の本気でコールドスリープを嫌がって泣く姿を見て、上司に会社都合睡眠の辞退を申し出るも、周りの状況が許さず結局コールドスリープをすることになるというものです。
ここで森野博士は、自分の発展させたコールドスリープ技術が自分に使われることについて「あんなもの開発するんじゃなかった」と後悔します。
また、コールドスリープを妨害しようと施設に乗り込んで大立ち回りをする陽太と森野博士が鉢合わせるシーンもここで書く予定でした。

この章がまるっと削られることにより、森野博士は本編で「自動運転車の中で資料読んでいるだけのおじさま」に成り下がってしまいます。
そして、陽太は活躍の場をなくし、出番の多くを失うのでした。


4.陽太と八重樫薫について
「ツトラへのナビ」で一番無理矢理感の溢れるところは、やはり最後の約20ページ。陽太と八重樫が出てくるあたりからラストまででしょう。

元々はしばらくの間、八重樫薫(以下、ヤーさん)を「生き延びて大人になった陽太」としてミスリードさせる予定でした。手首に景子さん特製ネックレスを巻いているのもその名残です。そう、当初ツトラは莉子に渡される予定ではなく、この容易く看破されそうなミスリードのために生まれた小道具でした。

しかし、同窓会と休学明けの下りだけでうっかり全体の約80%のページ数を消費してしまっていたため、そんな小細工を仕掛けている暇は無くなり、陽太は初対面のおっさんの車の助手席に乗り込むことになり、ヤーさんはヤクザの癖に保母さん並みの包容力で小学生の話を真摯に聞くことになるのです。


5.三上景子(陽太母)と八重樫薫について
同じくラストの「景子さんとヤーさんの関係」、そして「知られざるヤーさんの大冒険」は本来後半のほとんどを使って書く予定の話でした。
子供の陽太だけで都合良くコールドスリープできると僕が思えなかったのと、親子二世代に渡る話が個人的に好きだったのでプロットの段階から景子さんとヤーさんの関係は設定してありました。
ただ、残り10ページ近くでそれを書き切れるはずもなく、景子さんとヤーさんの関係はヤーさんの恐らくすごい早口であろう説明的な語りで片付けられ、ヤーさんの大冒険に関しては丸々カットになりました。
女子中学生の景子さんがヤーさんを取り戻すために電線を切ってから暗殺者のごとく真っ暗なヤクザの家に突入するシーンや、
アロハを着たヤーさんと同じくアロハを着た部下の、

部下「兄貴ィ、このままあの船に突っ込めば俺たち南の島でパラダイスなんですね!?」
ヤーさん「おうよ、ワイハでロコモコさ! ひゃっほーう!!」

というシーンは是非書きたかったなと心残りではあります。

ただ、我ながらヤーさんとクズ兄貴の下りにリアリティがなく上手く書く自信が無かったことと、これを全部書いてしまうと莉子が後半空気になってしまうことを考えると
もうちょっとやりようはあったにせよカットして良かったのかもしれません。
ちなみに子供に希少価値がつき誘拐が多発する設定は、既刊の「桜咲くことなかれ」の中にある「通学路変更」というショートショートからそのまま設定を持ってきています。

第三章「コールド焼け」の最後でヤーさんを不審者として登場させることにより、無理矢理生きていることは示しましたが、あの辺りももうちょっと丁寧にやりたかった。

……そう言えば、そのちょっと前に莉子が事件のニュースを調べるシーンにて「なお、この事件にはいくつかの不明点がある」と書いてありますが、丁度あの辺りがこの小説の頭のおかしさが一番よく出ているところです。
100ページ中、80ページも消費した辺りで何故無理矢理ミステリの冒頭部分の様なくだりを入れてきたのか。後で読み返してめちゃくちゃ笑いました。
ちなみに不明点の答えとしては、
「①陽太母は偽装のため髪の毛と血痕を残し、陽太とコールドスリープに入った」
「②衝突した船はヤーさんと部下が乗っており、その後、沈没しかけながらも人身売買によって使われていた裏ルートなどを使いなんとか南の島に辿り着いた」
です。ほんとどうしようもないですね。


6.その他
「ツトラへのナビ」は100ページの短い話ですが、意図的に名字を同じにしている二人のキャラクターがいます。本編中では接点の無い二人ですが、その人たちがどういう関係でどういうやり取りがあったのかは皆さんの想像にお任せします。


以上、今思いつく限りの「ツトラへのナビ」の補足でした。

反省点ばかりの話ですが、今までショートショートばかり書いて長編や中編をちゃんと終わらせることのできなかった僕にとっては、無理矢理と言えど終わってくれたこの作品がとても勉強になりました。

次回はもうちょっとうまくやろうと思います。
読んでくださった方、本当にありがとうございました。
少しでも面白いと思っていただけたらありがたいです。
それでは、また。

コメント

このブログの人気の投稿

第二十六回文学フリマ東京に参加します

このブログについて